文/章天佑
【明慧日本 2025年2月27日】「敵からの贈り物には気をつけよ」。これは西洋のことわざだ。敵の偽装に騙されて心の中に敵を入れないよう、警戒を促すものだ。この言葉はギリシャ神話の「トロイの木馬」の故事に由来する。ギリシャ軍は撤退を装い、陣地に有名なトロイの木馬を残した。この巨大な木彫りの馬はトロイ人によって城内に運び込まれたが、真夜中、トロイの木馬の腹の中に隠れていたギリシャ兵が現れ、トロイの城門を開き、トロイを陥落させた。
米国の作家マーガレット・ミッチェルの長編小説『風と共に去りぬ』には「将来どうなるかを知りたければ、歴史的事実を見るだけでよい」とある。
1945年、戦後の復興期に、中華民国は米国に援助を要請し、700万ドルの援助を承諾させた。しかし、1947年になっても援助金が贈られることはなかった。中華民国が問い合わせると、米国は調査を開始。そこで、米国財務省副長官ハリー・デクスター・ホワイト(Harry Dexter White)がこの資金を差し止めていたことが判明した。
実は、1945年にFBIは情報に基づきホワイトの経歴を調査していた。そして、ホワイトがソ連のスパイであることを示す確固たる証拠を得ていた。FBIは調査内容を「米国におけるソ連のスパイ活動」と題する報告書にまとめ、1945年12月4日にホワイトハウス、司法長官、国務省に提出した。しかし、何らかの理由により、その6週間後の1946年1月23日、トルーマンはホワイトを国際通貨基金(IMF)のアメリカ側責任者に指名し、2月6日に上院で承認された。当時、上院はホワイトに対する告発を知らなかった。
1948年になってようやくホワイトが逮捕され、下院公聴会で共産党員やソ連のスパイであることを否定した。当時、最も重要な証拠がソ連の米国における巨大な諜報網に関連していたため公開できず、ホワイトは弁明して一時的に罪を免れることができた。証言終了後、ホワイトは心臓発作で死亡した。ソ連の特殊工作員による口封じではないかとの疑いもあったが、証拠不足のため調査は立ち消えとなった。
1953年に公開された機密解除資料によると、ホワイトは連合軍のドイツ占領地域で流通していた軍用マルクの印刷版をソ連に渡していた。ソ連はこれを使って通貨を印刷し、占領地域で深刻なインフレーションを引き起こし、アメリカに2億5000万ドルの損失を与えた。
時が経つにつれ、機密解除される情報は増え続け、KGB責任者ヴァシリエフ(Vassiliev)の記録には、ホワイトの具体的な活動が列挙されている。米国政府内で最も高位に就いたソ連のスパイとは、つまりホワイトのことだ。
当時、中華民国政府の資金準備はほぼ底をつき、危機的状況にあった。ホワイトは誇らしげに「我々は職権の範囲内で最大限に遅延させた」と述べた。このようにして、米国内部に潜んでいたソ連のスパイは、間接的に中華民国政府の経済を破壊する役割を果たし、中共による政権奪取の条件を作り出した。
これは70年以上前に起きた出来事だ。ソ連のスパイが堂々と米国の連邦政府の要職に就き、FBIに告発されても数年間無事でいられたのだ。当時、ソ連共産主義の嘘は多くの人々を惑わせていた。1932~1933年にソ連のウクライナで起きた大飢饉について『ニューヨーク・タイムズ』のモスクワ特派員ウォルター・デュランティは断固として否定し「今日のソ連に飢饉があるという報道は全て誇張か悪意ある宣伝だ」と主張した。
英国の著名な歴史学者でソ連史の権威であるロバート・コンクエストは、その古典的著作『悲しみの収穫:ソ連の集団化と恐怖の飢饉』でこう書いている。「当時、世界で最も有名な新聞の最も有名な記者として、デュランティによる大飢饉の否定は真実として受け止められた。彼は『ニューヨーク・タイムズ』の読者を欺いただけではなく、新聞の威信により、スターリンとソ連政権に対する無数の人々の見方に影響を与えた」
ソ連と東欧の崩壊後、西側は共産主義の勢いは去ったと考え、中共に対して長期的な宥和政策を採った。中共は米国との経済貿易を通じて、様々な名目で米国に浸透した。ソ連がアメリカと直接対立したのと異なり、中共は安価な商品で米国経済と深く結びつき、相互依存の関係を築いた。米国は先端技術の制限などの措置を講じたが、中共の安価な商品による低価格攻勢の影響は短期間で簡単に排除できるものではなかった。
2024年、米国民主主義防衛基金の上級研究員ブドラブリュイエルとピカシックは最新の報告書『近敵:中国の米国地方への浸透』を発表し、中共の米国地方レベルにおける影響力と浸透の増大を暴露した。
ニューヨーク州知事室の前副チーフスタッフのサン・ウェンが中共のために働いていたことが発覚し、米国の政界に衝撃を与えた。
報道によると、中共政府はサン・ウェンと夫に数百万ドルの経済的見返りを提供していた。起訴状で明らかになった詳細には、台湾の外交官と州政府の接触阻止、中国総領事の黄屏への違法な表彰状授与、知事ホチュルの機微な問題に関する発言への影響力行使、知事の署名偽造による河南代表団の米国入国招請などが含まれていた。
サン・ウェンの起訴後、上院外交委員会の共和党筆頭委員ジム・リッシュはXの投稿で、中共の州・地方レベルでの米国社会への浸透は「もはや秘密ではない」と述べた。下院監視・説明責任委員会も投稿で、サン・ウェン事件は「孤立した事例とは考えにくい」と表明した。
『ニューズウィーク』の2020年の調査によると、アメリカで600の中共統一戦線組織が発見された。各組織が数名を勧誘したとすれば「少なくとも2万~3万人が、知っているか知らないかにかかわらず中国(中共)のために働いている」可能性がある。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、過去10年間で同郷会は中共によって「パートナー」として発展させられ、中共の米国における政治的発言力に影響を与える手助けをしているという。サン・ウェンは河南同郷会の統一戦線工作に利用された。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』の最新の統計によると、ニューヨーク市だけでも100以上のこうした同郷会が存在する。彼らは中共の情報部門のために働き、商業・技術機密を盗み、中共の秘密警察署の運営を手助けし、異議を唱える人々や法輪功学習者を国境を越えて弾圧し、アメリカ政府に潜入して中共の利益に関わる事項での政府の立場に影響を与えている。
中共は米国だけではなく、ヨーロッパにも赤い悪魔の爪を広げている。ドイツ、英国、フランスなどで、中共のスパイ活動は横行し露骨になっている。2025年1月13日、ドキュメンタリー「フランス-中国:秘密戦争」がフランスのテレビで初放送され、中国(中共)のフランスにおける政治、文化、科学技術から軍事に至る全方位での秘密戦を暴露した。ドキュメンタリーは、中共が先端技術、情報、文化財、宇宙、航空、軍事、文化のあらゆる分野に関心を持ち、急速な追い上げを望み、追い越しを図るため、フランスの強みを何度も盗用し模倣しようとしていることを示した。
英国では『タイムズ』紙の報道によると、逮捕された議会研究スタッフは議会通行証を持つ英国人で、長年にわたり議員と国際政策(対北京関係を含む)について協力してきた。彼は以前中国で生活・仕事をしており、その際にスパイとして勧誘され、北京政権を批判する政治的ネットワークに浸透するためイギリスに送り返されたと、治安当局は疑っている。
英国市民による議会への浸透事件は警戒を呼び起こした。MI5長官のケン・マッカラムは、中共がイギリスに対して「最も重大なゲームチェンジャーとなる戦略的課題」を突きつけていると警告した。中共の統一戦線工作は王室メンバーとの関係にまで及び、裁判所は中共統一戦線部を代表して政治的干渉活動を行ったと認定した。
2023年、英国議会情報安全保障委員会が発表した報告書によると、中共の国家目標は非常に単純で、中共の権力維持を確実にすることであり、他の全ては全てこの目標に従属するものだという。中共のほぼ全ての国際活動は対米闘争の文脈で行われており、米国と、いわゆる台湾独立、チベット独立、新疆分離、中国民主化運動が中共情報部門の最大の関心事となっており、法輪功も中共情報部門の注目を集めている。中共のイギリスに対する情報活動の重点は、対中政策で英国と米国の間に不和を生じさせることだという。
つまり、中共がヨーロッパで科学技術の成果を盗み、上層部への統一戦線工作を行う目的は、全て米国を追い越し、米国とヨーロッパの関係を引き離すためだということである。
英国の大文豪シェイクスピアはかつてこう述べた。「悪魔は我々を陥れるために、しばしばわざと真実を語り、些細なことで我々の信頼を得て、重要な時に我々をその罠に陥れる」
もし2001年に米国が全力で中共のWTO加盟を推進せず、米国が門戸を開いて大量の人材を育成せず、米国の資金が大量に中国本土に流入していなければ、中共はこれほど巨大な資金と財力を蓄積することはできなかっただろう。そして中共は逆に利益という「糖衣炮弹(甘い言葉で包んだ弾丸)」を西側に送り込み、西側を瓦解させ、世界を支配しようとしている。このトロイの木馬の西側への浸透の深さと広さは、今日でも一般大衆にとっては未知数である。
アイルランドの劇作家ショーもかつてこう嘆いた。「もし歴史が繰り返され、予期せぬことも常に起こるのなら、人類はどうやって経験から教訓を得ることができるのだろうか?」『共産党宣言』の扉には「一つの幽霊、共産主義の幽霊がヨーロッパをさまよっている」と書かれている。
この幽霊は「自由」、「進歩」、「覚醒」の仮面をかぶり、人々を伝統、道徳、神に反対するよう長期にわたって惑わしてきた。イデオロギー、文化、芸術、経済、科学技術、メディアなど、あらゆる面での「世界支配」戦略の実現度は「幽霊の資金」に操られたメディアの隠蔽のもと、各国の一般市民の認識をはるかに超えている。
最後の審判はますます近づき、正邪の決戦の号角(かくごう:角笛)は既に鳴り響いている。人々が心の底から共産主義の悪魔を唾棄するとき、人類は初めて真に善に向かい、神へ回帰することができるのである。