文／睿文

　【明慧日本2025年6月26日】「師を尊び、道を重んじる」ことは中国の伝統的な美徳です。五千年以上にわたる長い歴史の中で、古代の人々は師を尊敬し道を大切にし、自らの品格を高め、道徳を向上させてきました。次に、師を敬う修行者と師を背いた修行者の例をひとつずつ挙げます。

　師を敬い、原点を忘れない目犍連

　ひとつめは釈迦牟尼仏の弟子である目犍連（もくけんれん）の話しです。多くの弟子の中で彼は「神通第一」と称され、修行を通じて大きな神通力を身につけています。

　釈迦牟尼仏が法を説く際、この世だけでなく、他の空間でも多くの生命体が耳を傾けていました。仏陀の説法の声は、一定の範囲内の宇宙空間にいるすべての生命に届いていたのです。

　そのような殊勝な光景を目犍連は見ることができました。ある日、彼は釈迦牟尼仏の説法がどれほど広い宇宙空間で聞かれているのかを知りたくなりました。そこで彼の元神は彼の体から離れて高次元の空間に入りました。訪れた各空間で釈迦牟尼仏の説法の声を聞きました。彼はどんどん高く上がり、釈迦牟尼仏も、彼のやろうとしていることを知っていました。

　目犍連が「光明幢」（こうみょうとう）という名の仏世界に到着した時、そこにいる神々は非常に巨大で、小さな目犍連を見た神は、「いったい、どこからこんな小さい虫が来て、私たちの鉢の上を歩いているのだろう」と言いました。その仏世界の法王は、「この者は、娑婆世界で衆生を救い済度している釈迦牟尼仏の弟子だ」と神々に説明しました。

　その時、釈迦牟尼仏は神通力を使って、目犍連に「あなたは今、体を大きく変える力を備えている」と伝えました。目犍連は釈迦牟尼仏の加持を得て、巨大な体に変化して、また、その体は光を放ち、光の中には無数の蓮の花が現れました。それぞれの蓮華座の上では釈迦牟尼仏が法を説いています。その仏世界の菩薩たちは皆、合掌して敬意を表しました。

　神通力を示した後、目犍連はその仏世界の法王に「こんなに遠い世界に来てしまい、どうやって帰ればよいのか分かりません。娑婆世界への帰還をお助けてください」と言いました。法王は「あなたの力では、たとえ一劫（268億年）が経っても娑婆世界には戻れません。しかし、一つの秘訣があります。それは、原点を忘れないということです。師から心を離さず、誠心誠意で師を敬い、師である釈迦牟尼仏の名を唱えれば、帰ることができます」と教えました。目犍連はその通りに行い、師である釈迦牟尼仏の名を誠心誠意に唱えました。一念のうちに、釈迦牟尼仏によって娑婆世界に連れ戻されました。

　師に背いて神通力を失くした黄天化

　『封神演義』の中の、道を学んだ黄天化（おうてんか）がもうひとつの例です。彼は姜子牙（きょうしが）を助けて残虐な紂王（ちゅうおう）を討伐しました。黄天化は山を下りた時、ちょうど姜子牙が四大天王に困らされていました。相生相克の理によれば、黄天化は四大天王の天敵でした。しかし不思議なことに、黄天化は最初の戦いで魔礼青（まれいせい）と対戦した時、あっという間に魔礼青が使った白玉金剛の腕輪に殺されました。黄天化は後に師に助けられて復活しました。

　黄天化はなぜ命を落とす危険に遭遇したのでしょうか。彼の師は「愚か者よ！　山を下りて肉を食べたことが一つ目の罪で、姿を変えて原点を忘れたことが二つ目の罪である。もし姜子牙との関係を考慮に入れなかったら、おまえを助けてやることは決してなかった」言いました。

　昔の修道者は菜食主義を守っていましたが、黄天化が山を下りた後、一般人と同じように肉食を始め、戒律に違反したのです。また、修道者は道服の着用を求められますが、彼は山を下りると髪型を変て、王族の衣装を身につけ冠を被りました。その姿を姜子牙に見られてしまい、姜子牙から「黄天化よ、あなたはもともと修道をする人なのに、なぜ突然服装を変えたのですか。私は今、高い地位にいても師の恩義を忘れられないで、思い出すだけで恐縮しますが、あなたは昨日山を下りたばかりだというのにもう服装を変えてしまったのですか」と苦言を呈されました。服装を変えることは、修道を止めて俗人の生活に戻ることを意味しているので、これは、黄天化が原点を忘れた行為だったのです。

　原点を忘れた人は、源のない水、根のない木のようなものです。修行の基本から離れると、彼の神通力も師のご加持を受けられなくなり、対戦の中で黄天化は殺されたわけです。修行文化の中に、「初心を忘れずにいてこそ、最後までやり遂げることができる」という考え方があります。外見や振る舞いはそれほど重要ではなく、大切なのは徳を積み、心を磨くことを実際に行っているかどうかです。

　中国文化は神から伝えられた文化です。一般人の生活において天を敬い祖先を祭る風習があり、修行の世界においては師を尊び、道を重んじるという規範があります。心性の高低や善悪は、内心に隠されており他人には見えないため、師を欺いたり裏切ったりして、自分のルーツと原点を忘れる人がいます。但し、そうした人には想像もできない災いが待っています。

　東洋と西洋では、共通して文化の中に神への信仰があります。イギリスの作家、シャーロット・ブロンテは小説『シェリー』に、「神は、愛する人に常に試練を与える」と述べています。遭遇した苦難や不幸は、神が人を成長させるために与えた試練です。これらの試練をどう捉えるかは、人間の信仰がどれほど固いかを示しています。

　イギリスの小説家・スコットは、「神だけが人の心を判断できる。凡人は行動を通じてしか動機を判断できない」と言いました。

　歴史には、神仏への純粋で揺るぎない信仰によって、神仏に守られ災難が消え去った話しが数多く残されています。