文／徐茂

　【明慧日本2025年7月3日】2024年の春、親パレスチナの抗議活動がアメリカの主要大学キャンパスで勃発しました。これらの抗議はキャンパスの秩序を深刻に乱し、抗議者たちは授業を妨害し、校舎を占拠し、インフラを破壊し、ユダヤ系の学生を脅かしました。

　ニューヨーク市警（NYPD）がコロンビア大学のハミルトンホールに設置された親パレスチナのバリケードを撤去した際、抗議者たちは工業用チェーン、防毒マスク、耳栓、ゴーグル、ハンマー、ナイフ、ロープなどで武装していたことが判明しました。警察はまた、コロンビア大学で逮捕された人物の約25%が学生ではないことを確認し、ニューヨーク市立大学（CUNY）ではその割合が60%にも達していました。

　しかし、さらに調査を進めると、これらの草の根運動のように見える組織には共通の資金提供者がいることが明らかになりました。それはネヴィル・ロイ・シンハムという、長年中国共産党（中共）と協力関係にあるアメリカのテクノロジー富豪で、現在は上海に常駐しています。

　2001年から2008年まで、シンハムはファーウェイの顧問を務めており、ファーウェイは中共のスパイ活動への関与から多くの国でブラックリストに載せられています。2019年には、中共の宣伝体制と連携する人物たちと共にコンサルティング会社を設立し、2023年7月には中共が上海で主催した戦略宣伝会議にも姿を現しました。同年後半には、彼が支援するメディア「NewsClick」[1]が中共からの資金を受け取り、そのプロパガンダを広めていたとして、インドの執行局に召喚されました。

　ネットワーク感染研究所（Network Contagion Research Institute）によると、シンハムが資金提供する一連の団体（「シンハム・ネットワーク」と総称される）は、少なくとも2017年からアメリカに対し非公開の資金を流入させ、中共支持のアジェンダや言説を広めているとされています。

　同研究所はさらに、このネットワークが過激な親パレスチナ抗議活動においてますます重要な役割を果たしており、シンハムがSID4Pの7つの加盟組織のうち少なくとも3箇所に多額の資金を提供していることを指摘しています。

　浸透の中核：中国共産党統一戦線工作部（統戦部）

　1930年代以降、中国共産党には国外での影響力拡大を専門とする部門が存在しています。1939年1月5日、中共中央書記処は正式に「統一戦線工作部（統戦部）」を党内機関として設立しました。この部門は、中国社会のあらゆる領域（宗教団体、少数民族、他政党、企業家、無党派知識人など）や海外社会において「統一戦線」を築く役割を担っています。

　統戦部自身の任務声明にもこうした活動が示されています。たとえば民族・宗教問題の分野では、任務に「民族・宗教界の代表人物との連絡を保つ」「関係部門と協力して民族・宗教界の幹部を育成・活用する」「ダライ集団およびその他国内外の祖国分裂勢力との闘争に関与する」などが含まれています。

　「闘争」とは、中国共産党の用語で、敵対勢力と見なされた組織に対し、組織的な打撃や解体を行うことを意味します。

　対外活動の面では、統戦部の目標は「祖国統一の促進を重点とする対外活動の展開」であり、香港・マカオ・台湾において親中派ネットワークを構築し、中共の目標推進を図ることです。また、統戦部は海外の華僑団体の「代表人物」との連絡や、華僑団体の「動向」の監視を担当し、それらを通じて中国共産党のプロパガンダを拡散します。

　オーストラリア戦略政策研究所によると、統一戦線システムは「中国共産党の政治制度を海外の政党、華僑社会、国際企業へ輸出し、社会の団結を破壊し、人種間の緊張を激化させ、政治に干渉し、メディアの信頼性を損ない、スパイ活動を助長し、監視されていない技術移転を推進している」と指摘されています。

　統戦部は表向きには無害な団体を通じて活動することが多いため、その影響力はしばしば「隠蔽され」「欺瞞的」であり、識別が困難です。アメリカ議会傘下の米中経済安全保障調査委員会（USCC）は2022年の報告書で、「中国共産党に支配された機関のリスト」、特に「統戦部に付属するすべての機関」を作成すべきだと提言しました。

　これらの親中共組織の活動を追跡することで、統一戦線工作部（統戦部）が海外社会に対して行っている主要な干渉戦略が明らかになります。それは、社会騒乱への資金提供、エリートの買収、スパイによる浸透、メディア操作です。

　社会騒乱への資金提供

　「シンハム・ネットワーク」の存在が明るみに出る以前から、中国共産党がアメリカ国内で大規模な社会的混乱を引き起こす団体に資金提供をしていることが判明していました。

　2020年、アメリカでは「ブラック・ライブズ・マター（BLM）」運動をきっかけに、全米規模の大規模な抗議活動が発生しました。これは警察による過剰な暴力行為に対する社会的不満が発端でした。多くの抗議は当初、正義を訴えるような（見た目の）趣旨を持っていたものの、一部は深刻な暴力事件へと発展しました。アメリカ保険情報研究所（III）のデータによれば、この騒乱による保険対象の財産損害は10億～20億ドルに達し、アメリカ史上最も破壊的な内乱事件の一つとなりました。

　BLM創設者の一人であるアリシア・ガルザはその後、「ブラック・フューチャーズ・ラボ」という団体を設立し、BLM運動の推進を図りました。アメリカの保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の調査によれば、このラボの寄付ページには明確に「すべての寄付は『チャイナ・プログレッシブ・アソシエーション（CPA）』という団体を通して処理される」と記載されていました。

　スタンフォード大学の論文によると、CPAは「もともと中国共産党を支持する左翼団体であり、中華人民共和国の革命思想や労働者の権利を広めることを目的としていた。また、コミュニティの自立と“人民への奉仕”を強調しており、アメリカ国内の他の親中共団体と連携して政治的なアジェンダを推進していた」と述べています。

　ボストンでは、CPAが中華人民共和国の国旗掲揚イベントを何度も主催しており、その際には多くの中共高官が出席していました。さらに、中国共産党の機関紙『チャイナ・デイリー（中国日報）』は、BLM抗議活動におけるCPAサンフランシスコ支部の積極的な役割を称賛したこともあります。

　2023年11月、習近平がサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議（APEC）首脳会議に出席した際、『ワシントン・ポスト』は、少なくとも35の親中華僑団体が中国領事館に動員され、反共抗議を抑え込もうとしていたことを報じました。これらの団体は、唐辛子スプレーや鈍器で攻撃を行い、反共抗議者の私物を盗むなどの行為にも及んでいました。

　同紙はさらに、いくつかのWeChat（微信）のグループチャットの記録を暴露し、ロサンゼルスの中国総領事館がこれらの団体に対してサンフランシスコへの交通費や食事補助を提供していたことを確認しました。

　エリートの買収

　中国共産党の統一戦線工作部（統戦部）は、外国社会のキーパーソンを取り込むことにも力を入れています。金銭や物質的利益を通じて一部の人物を中共の意向通りに行動させ、表面上は「独立」を装った中国の代弁者にしてしまうのです。

　2024年、米国のシンクタンク「情報技術・イノベーション財団（ITIF）」のロバート・アトキンソン博士は、米国議会の公聴会で「米国のあらゆるエリート層、ビジネス界から政治、学術界に至るまで、ほぼすべてが中国共産党の統戦工作の標的となっている」と述べました。議員アンディ・ビッグスの質問に対し、アトキンソン氏は「全員です。彼らはほぼすべてのエリート層に浸透しようとしています」と明言しました。

　『ニューズウィーク』が2023年に行った調査によれば、1990年から2023年にかけて、ニューヨークの連邦・州・市レベルの政治家たちが受け取った選挙献金の中に、統戦部に関連する団体や個人からのものが100万ドル以上含まれていたことが判明しています。

　その中には、連邦下院議員の孟昭文（Grace Meng）も含まれており、彼女は2006年以降、合計で27万ドル以上の統戦関連の献金を受け取っていました。彼女の献金者の一人である安泉忠（An Quanzhong）は、中共の「狐狩り作戦」（海外の反体制派を強制送還する活動）に関与したとして、20か月の禁固刑を受けた人物です。孟昭文は、自身の選挙区で「安泉忠の日」を制定し、彼の在米華人コミュニティへの貢献を称えたこともありました。

　また、統戦部と深い関係を持つ団体「アメリカ河南同郷会（Henan Chinese Associates USA）」は、自らが孟昭文の2008年ニューヨーク州議会当選に貢献したと公言しています。

　学術界もまた、安全地帯ではありません。2020年、ハーバード大学のナノサイエンティストであるチャールズ・リーバー教授が、中国の「千人計画」からの資金援助を受けていたにもかかわらず、収入や協力関係を隠していたことが発覚し、FBIに逮捕されました。

　ハーバード大学における彼の研究室は、2008年から2019年の間に、米政府からおよそ1500万ドルの研究助成金を受けていましたが、リーバー氏は2012年から2015年まで中国の武漢理工大学の「戦略科学者」として契約し、「千人計画」に加わっていたのです。

　米国司法省の報告によれば、リーバー氏は月給5万ドル、生活補助最大15万ドル、研究資金150万ドルを受け取っていましたが、ハーバード大学にはこれらの任職を申告せず、米国国防総省の調査時にも「千人計画に招待されたことはない」と虚偽の供述をしました。

　2023年、リーバー氏は連邦政府への虚偽陳述、銀行口座の隠蔽、脱税など6件の重罪で有罪判決を受けました。判決内容は、2日間の拘留、2年間の保護観察（うち6か月は自宅軟禁）、罰金と損害賠償の合計8万3600ドルでした。

　刑罰を受けた後も、彼は依然として中国の学術界で活動しており、現在は清華大学深圳国際研究生院の客員教授を務めています。

　（続く）

　[1] NewsClickはインドのニュースサイトであり、2018年以降、3つの異なる団体から資金提供を受けており、そのうち2つはアメリカ人実業家ネヴィル・ロイ・シンハムと関係があります。

　2023年8月5日、『ニューヨーク・タイムズ』は「中国の世界的なプロパガンダ運動を支援するアメリカの富豪」と題した調査報道を発表しました。この報告では、ロンドンのチャイナタウンで行われたアジア系住民に対する憎悪犯罪の増加に抗議する活動に、さまざまな団体が集まったことが記されています。しかし、目撃者の証言によると、2021年11月、主催団体（「新たな冷戦に反対する（No Cold War）」という団体を含む）と同じ立場にある複数の男性が、香港の民主運動を支持する活動家を襲撃し、暴力沙汰に発展しました。

　『ニューヨーク・タイムズ』は、この「新たな冷戦に反対する」団体は表面上、アメリカとイギリスの活動家によって運営される緩やかな組織に見えるが、実際には資金力のある影響力運動の一部であり、中国共産党を擁護し、そのプロパガンダを推進することを目的としていると指摘しました。この運動の中心人物は、極左の社会主義的理念を支持することで知られるアメリカの富豪、ネヴィル・ロイ・シンハムです。あまり知られていないのは、彼が中国共産党の公式メディアと密接に協力し、数多くの非営利団体やペーパーカンパニーを隠れ蓑にして、中国共産党の世界的な宣伝活動に資金を提供しているという点です。

　『ニューヨーク・タイムズ』によると、当時69歳だったネヴィル・ロイ・シンハムは上海に居住しており、彼の傘下にあるメディアの1つは、他者と共同でYouTube番組を制作しており、その一部の資金は上海の（中国共産党）宣伝部門から提供されていました。彼が所有する別の2つのメディアも中国のある大学と提携し、「世界に中国の声を発信する」ことに取り組んでいます。シンハムはまた、中国共産党の世界的プロパガンダに関するセミナーにも参加しており、彼とその仲間たちは、共産党の官僚が「煙の立たない戦争」と呼ぶ戦線の最前線にいるとされています。

　中国共産党は、海外メディアとの協力を積極的に進め、外国人インフルエンサー（ネット有名人）を育成し、公式プロパガンダを「独立したコンテンツ」に偽装しようとしています。

　『ニューヨーク・タイムズ』の報道によれば、シンハムのチームが制作したYouTube動画は、累計で数百万回の再生数を記録しており、さらに彼らは以下のような方法で現実の政治にも影響を及ぼそうとしていました：米国の議会スタッフと面会する、アフリカで政治家を育成する研修を行う、南アフリカの選挙で候補者を擁立する、ロンドンで暴力に発展した抗議のような活動を組織する。

　2023年10月、インドの法執行機関はテロ対策法を適用し、ニュースサイト「NewsClick」に対する家宅捜索を行いました。その理由は、同サイトが中国共産党と密接な関係を有しているという疑いに基づくものでした。インド警察は、NewsClickのスタッフや執筆者の自宅を一斉に捜索し、インドの与党であるインド人民党（BJP）は「NewsClickに対する捜索は証拠に基づくものだ」と主張しました。