色彩学と修煉文化(六)
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文/Arnaud H.

 【明慧日本2022年1月18日】(前号より続く

原色理論の限界

 美術史の全体を見渡したとき、今流行っている色彩学の理論は、古代のそれとはかなり異なります。美術界には「赤、黄、青の三色によって、すべての色を作ることができる」という説があり、多くの学校でもこのように教えています。この説には歴史的な経緯はあるものの、筆者の視点からは明らかに間違っています。もしこの三色ですべての色を作れるなら、世界上のすべての顔料工場はこの三色を生産するだけで十分足りるでしょう。すでに多くの色があったのに、なぜ引き続き新しい顔料を開発しているのでしょうか?

 この説は熟考に耐えないのですが、歴史上、ある色彩理論から発展し、そしてまた異化したものです。200年前に遡り、啓蒙時代(Enlightenment)に科学的思考が促進されたことを背景に、色彩学の発展が徐々にデジタル化、科学技術化されてきたことによります。18世紀の一部学者、例えばドイツの画家兼彫刻家であるヤコブ・クリストフ・ル・ブロン(Jacob Christoph Le Blon)、数学家トビアス・マイヤー(Tobias Mayer)、イギリスの昆虫学家兼彫刻家モーゼス・ハリス(Moses Harris)といった人々は、実験を通して、また数学と科学領域の研究を結合して、先人の経験に基づいて、徐々に「赤、黄、青の三つの色を基礎にして、他の色を作る」理論体系を作り上げました。これらの理論は美術界に影響を与え、徐々に色彩原理となりました。

 赤、黄、青の三色を混ぜ合わせることによって、確かに多くの色を作りだすことができます。教科書にも、「赤+黄=橙、青+黄=緑、赤+青=紫」などと書かれています。ですから、多くの人々が、この三種類の色によって、すべての色を作りだすことができると誤解しているのです。

图例:英国画家海特

イギリスの画家チャールズ・ハイター(Charles Hayter)が著作した色彩学の書籍の挿絵。赤、黄、青の三色の混ぜ合わせによって様々な色ができることを表す。

 しかし、専門訓練を受けた美術に携わる人、あるいは色彩に敏感な人がしっかりと観察すれば、「赤い顔料と黄色の顔料を混ぜ合わせて作った橙は灰色がかった橙になり、青と黄を混ぜ合わせて作った緑は灰色がかった緑になる。赤と青を混ぜ合わせて作った色は、灰色がかった紫になる」と分かるのです。店で購入した純粋な橙、純粋な緑、純粋な紫は、混ぜ合わせて作られた色よりも彩度が高いのです。

 言い換えれば、純粋な赤、黄、青の彩度と同じレベルの橙、緑、紫の色は、混ぜ合わせても作ることができないのです。これは、この理論のはっきりとした綻びです。いわゆる「赤黄青の三原色」の体系は現実に、純粋な橙、純粋な緑、純粋な紫などの基礎色領域を含まないのです。よってその後、多くの学者がこの理論を非難しており、専門家は新しい色彩学理論を続々に発表しています。フランスの美術家ジャン・ジョルジュ・ヴィベール(Jean-Georges Vibert)は、1891年に出版した著作でこの問題について討論し、「三原色を混ぜ合わせて、他のすべての色を作りだすことができるというのは間違っている」と主張しました。

 歴史は今日まで発展してきましたが、新しいバージョンの「赤、黄、青緑」の顔料三原色は、旧バージョンの「赤、黄、青」に替わりました。しかし、新しいバージョンの三原色はまだ完璧な体系を形成しておらず、その理論は描くことに適用できません。むしろ旧バージョンの「赤、黄、青」の方がよいだろうと思われます。新しいバージョンの三原色は教科書にも多く記載されましたが、現実的には適用されておらず、まだ混乱しています。

 科学技術の分野における基礎となる色の選択は、その時代の技術によって決まります。原色の概念は、三つだけに固定されているとは限りません。例えば、今開発されているモニターは、赤、黄、青、緑の四色が基本色としており、これを様々な割合で混ぜ合わせることで、様々な色をシミュレートしたのです。このように技術の分野では光の三原色が四原色となり、「4原色技術」と呼ばれています。将来は、五原色、六原色といった技術が現れる可能性もあり、業界では「多原色ディスプレイ」(Multi-primary color display)と呼ばれています。

 実は視野を広げれば、歴史上、学術界に一つだけの認識があったわけではありません。例を挙げましょう。皆さんもご存知のレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)は、絵画にも造詣が深かったわけですが、色彩について六原色理論を提唱しました。当時はまだ「原色」という言葉が一般的ではありません。彼は当時の美術界の慣習により「簡単色」という語句で六種類の色を形容しました。それは「白、黄、緑、青、赤、黒」です。

 三原色理論が学術界に定着すると、研究者は実証科学の枠にとらわれました。しかしそれでも三原色理論を認めない学者がいました。レオナルド・ダ・ヴィンチに触発された19世紀ドイツの生理学者エヴァルト・ヘリング(Ewald Hering,1834年~1918年)は研究を重ね、網膜は三つの対立色の感応度を通して色彩を感知することを発表しました。三つの対立色とは、「赤-緑」、「黄-青」、「白-黒」です。よって人の目にとって基礎色は三つ以上です。この理論はその後の多くの専門家の検証によって、徐々に三原色理論と並び立つ主流の色彩理論の一つになりました。これは、赤、黄、青、緑(場合によって、白と黒も含む)を原色とする現代の「NCS (表色系:Natural Colour System)」と「Lab色空間」(CIELAB color space)の登場へと繋がっているのです。

图例:建立在多原色理论基础上的“自然色彩系统”(Natural
多原色理論に基づく「NCS (表色系:Natural Colour System)」のアニメーション

続く

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2021/10/15/431984.html)