伝統色の奥妙(四)
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文/Arnaud H.

 【明慧日本2021年12月2日】(前号より続く

金と黄

 各国の伝統文化で普遍的に認められている色と言えば、恐らく金色でしょう。多くの人は「金」という文字を見ると、お金を連想すると思います。一部の人は、自分が金銭にこだわらないことを表現するために、わざわざ金色を排斥しています。また一部の人は金色を見ると、すぐに「派手」とか「成り金」とレッテルを貼ります。実はそこまで考える必要はありません。金銭に執着しない人なら、金銭に対する態度も穏やかです。「金」という文字を見たとしても直ちにお金を連想することはありません。もちろん、経済社会での黄金は、確かに富と関係があります。大昔から今に至るまで、黄金が人類社会でずっと高い位置をしめてきたのは、必ず何らかの原因があるのでしょう。

 原始社会や文明の初期では、世界各地で申し合わせたかのように黄金を貴重なものと見なしていました。昔の資料によると、古代文明の人々は黄金を尊崇していました。しかしこの尊崇は、現代の拝金思想とは関係がなく、神への尊崇に由来します。

 豊富な遺跡と史料の研究によって、学術界には、古代四大文明の一つである古代エジプトで何故黄金を尊崇するのかについて、統一的な見解があります。数千年の神伝文化の影響で、古代エジプト人は輝かしい文明から一つの天機を継承しました。それは、黄金は神の体の残骸であり、永遠不朽な特性が宿っているという考え方です。

 表面的に見れば、そうした高い次元の生命の残骸は、超新星爆発や中性子星合体によって天から地上に落ちたものです。実はその源は人類の次元を超えており、通常の金属要素とは完全に異なります。現代科学は既に多くのハイテク素材を作ることができますが、「人工黄金」について実験しても成功することはありません。その根本的な原因は、次元の境界の差があるからです。

 古代の錬金術(Alchemia)について言えば、錬金術師は心性が非常に高い次元に達していなければ、成功の可能性はありません。錬金術に「賢者の石」(Lapis Philosophorum)という言い方があります。つまり、錬金術師が修煉を通じて「賢者」の域に達することが要求されるということです。

 「改ざんされた神話と本当の伝統(五)」で述べたように、「Philosophia:哲学」とは元々「智慧の愛」の意味です。哲人は「智慧の愛」を悟り、智慧を持つ人で、つまり西洋修煉による覚者のことです。歴史上、錬金術を研究する人の中には、本物の伝授を受けたことがなく、金銭欲から粗雑な化学実験や世間小道の手段で石を金に変えようとしましたが、常人の技術で神佛の次元の物を作ることは不可能でした。

 修煉界における「金」の意義は、現代経済学と物理学上の概念とは完全に異なります。中国伝統文化における神や佛についての記述は、すべて金と関わります。お寺の佛像は、ほぼ金色の衣を着ていますが、その理由は、佛が「金身」であるためです。かつて道家では「金丹」を修煉し、「金仙」に成就すると言われていました。これらの説は、古代エジプト人の認識と一致しています。神佛の「金」の概念は古くから三界を超え、五行の中におらず、五行の「金」に属しません。

 人間社会の黄金は高次元のものより純粋ではありませんが、その源は神聖な天上ですので、昔から魔除けの力があるとされています。李時珍(りじちん、明の医師・本草学者)の『本草綱目』に、「鎮精神,堅骨髄,通利五臓邪気」と書いてあります。つまり、黄金は人に気を取り戻させ、骨髄を強化し、五臓の邪気を取り除くことができます。また金色は高次元の象徴とされ、前回お話した「五色」の概念を超え、神聖、尊貴、高尚な特質があります。同時に、黄金は非常に安定性があります。素地も柔らかいので、この色は、永遠、安定、中和の象徴とされました。

 色彩学から見ると、金の色には、多くの異なるグラデーションカラーがあります。全体の色は、普通の単色ではありません。黄金の質感をベースとした印象となります。全体の色調は黄色により近いので、人々は黄色と金色を結びつけて「黄金」と言い、「黄金色」と呼び始めました。「金」は、黄色と繋がったのです。

 中国後漢時代の劉熙は、『釈名(しゃくみょう)』に「黄,晃也,猶晃晃,像日光色也」と記しました。日本語に翻訳すると「黄色は輝き、眩しく輝き、太陽の光の色のようです」となります。天を尊敬し運命を信じる古代人は、天から降り注ぎ、普く大地を照らす光の色をとても尊崇していました。唐朝の『通典』には「黄者中和美色,黄承天徳,最盛淳美」とあります。日本語に翻訳すると「黄色は中和的な美しい色です。黄色は天の徳を継承し、最も豊かで純粋な美です」とあります。古代人は、黄色が中和、正しい、穏やかなものを象徴する美しい色であり、天上の品徳を継承し、最も純粋な美の色だと思っていたのです。現存する明清の皇宮や太廟(たいびょう:皇帝の祖先を祭る御霊屋)、及び他の皇家の建物の屋根がすべて黄色なのは、こうした理由です。

 天徳を継承するだけでなく、大地も全体的に黄色がかっています。後漢の『説文解字』に「黄,地之色也」とあります。大地は「土」に属します。ですから五行でも、土と黄色が繋がっています。五行は同時に五つの方位に対応するので、前回お話しした「五色」は伝統文化で「五方正色」と呼ばれます。つまり、東方は青(五行の木)、南方は赤(五行の火)、西方は白(五行の金)、北方は黒(五行の水)、中方は黄色(五行の土)となります。

 黄色は中心の色として、上には天徳を継承し、下には地徳と繋がります。すべての色の上に位置する正統かつ中和の色と見なされています。『易経』にも「黄裳,元吉」とあります。つまり、黄色の服を着ると縁起がよいという意味です。このことから中国の皇帝の龍袍は徐々にこの吉祥な色を採用し、特に隋唐時代以後、黄色の龍袍はずっと重視され、それが伝統になりました。

続く

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2021/8/15/429238.html)
 
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