絵画に描かれる時空(三)
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文/Arnaud H.

 【明慧日本2022年3月23日】(前号より続く

空間の模擬

 絵画で表現された情景は、見える空間をそのまま模擬したものです。この模擬は人の視覚に基づいたものですが、完全に現実を再現したものではありません。写生を経験した人はお分かりでしょうが、ややこしい衣装のひだを大まかにしたり、あるいは減らしたりして対象物の細部を処理・調整すると、最終的に実物と作品には必ず差異が生じます。これは、画家の主観要素が作品に加わったからです。そればかりでなく、人の脳は、客観的な現象を自動的に処理することさえできるのです。

 ここで色彩学を例として挙げます。『色彩学と修煉文化(七)』で、筆者は「マゼンタ」(明るく鮮やかな赤紫色。紅紫色(こうししょく)とも呼ばれる)という色について説明しました。この色には特徴があります。実は通常の「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」と異なり、この色は現実のスペクトルにはありません。人の脳が自動的に合成してできた色なのです。

 ここでまず自然光のスペクトルを見てみましょう。

图例:自然光光谱色彩图。

自然光のスペクトル

 スペクトルは赤から紫色まで、約700ナノメートルから400ナノメートルまでの周波数帯をカバーしており、これが人の目に見える色の光で、つまり可視光線です。赤の右側は赤外線で、人の目には見えなくなります。同様に紫の左側は紫外線で、これも肉眼では見えないのです(超能力を持っている人を除く)。ですから、スペクトルの赤と紫は、両極に位置しています。

 しかし、色彩学の研究を通して、人間は「色環」を発明しました。自然光のスペクトルでは紫と赤は接していないため、紫から赤まで空白にすべきです。しかし、修煉者が周天功法煉功する時に橋渡しするように、人は紫と赤の間に色を付けてスペクトルの前後を繋げて環の形にして、色環を作り上げました。色環では、前後繋がりの部分の色彩は、他の部分の色彩の性質とは異なります。スペクトルのすべての色は、固有の波長と周波数を持っていますが、前後の繋がりの部分(マゼンタ)には固有の波長と周波数がないのです。スペクトルには、この色が存在しないからです。

图例:奥地利自然学家希弗穆勒(Ignaz Schiffermüller)于1772年所绘的色环。

オーストラリアの博物学者シファーミュラー(Ignaz Schiffermüller)が1772年に描いた色環

图例:非闭合色轮理论示意图,最上方的两种紫红类颜色在光谱中可见光的420nm(纳米)至700nm间没有单独的波长,被置于自然光谱色群体的范围之外。

非閉鎖の色輪図、上の2種類の赤紫色は自然光のスペクトルの範囲外

 ではこれらの赤紫色はどうやって出て来たのでしょうか? 人が想像して作ったのでしょうか? 想像と言えば想像ですが、単なる想像の産物ではありません。簡単に言えば、この類の色が見えるのは、スペクトルの藍紫色と赤色の光の波長を同時に見て、人の視神経と脳がこの2種類の波長の光を自動的に処理し、合成して「赤紫色」を見たと感じたのです。

 このように、人の脳は自動的に現実と異なる状況を判断することが可能です。さらには人の感知も、現実空間の物理的な状態に限定されるものではないのです。環境や構造、色彩、明暗などの要素を模擬することを通して、絵画に他の空間の状況を現わすことができます。特に神様や聖域の表現が多いのは、その代表的な例です。

 古代から現代に至るまで、神様を描いた絵画はたくさんあります。歴史や文学などの領域を結合し、人類文明は、図形性の認識方式を形成しました。例えば、雲を描いて、その上に伝統的服装を纏った、落ち着いた美しい光を放つ人物を描いたら、見る人は基本的に、神様あるいは高次元の生命だと分かります。

 高い次元も、このような技法で表現することができます。絵の空に、雲、色彩、透視図法を採用して他の空間を表現し、空間が重なる効果を得ることができます。例えば下の絵です。

图例:佛罗伦萨画家波提契尼(Francesco Botticini)所绘的《圣母升天》(Assunzione della Vergine),木板坦培拉,228.6厘米×377.2厘米,作于1475年~1476年。

フィレンツェ画家フランチェスコ・ボッティチーニ(Francesco Botticini)の『聖母の被昇天』(Assunzione della Vergine)

 上の作品では、人々がマリアの棺を開けると、そこにマリアの身体はなく、純潔を象徴する百合の花だけがあります。マリアは昇天していますが、上と下の二つの部分は異なる空間に属します。この絵は、同時に人間と神様の空間を表現しており、こうした表現は西洋絵画でよく見られます。

 この方式以外にも、芸術家は光影の観点で特殊な視覚効果を表現することができます。例えば、デンマークの画家カール・ハインリッヒ・ブロッホ(Carl Bloch)は自らの作品『羊飼いたちと御使い』(The Shepherds and the Angel)で、強烈な明暗のコントラストを通して、天使の光明と、その体の高エネルギーを表現しており、一目で天上から来た生命と分かります。

图例:丹麦画家布洛赫(Carl Bloch)的油画《牧羊人与天使》(The Shepherds and the Angel),作于1879年。

羊飼いたちと御使い

 古来、神様や天国世界を表現することは、美術の基本的な目的の一つです。美術界は数千年にわたり様々な経験を積み重ねており、絵画で他の空間を表現する方法は非常に豊かです。画家は、分子で構成する顔料では、真に神や神の世界の素晴らしさを表現することができません。しかし、既存の伝統的技法と経験によって神様の空間を表現することで、人の心の善念と佛性を呼び覚まし、美術を通して人心を昇華し、神聖な境地と繋がることができます。

続く

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2021/12/20/434468.html)
 
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