絵画に描かれる時空(四)上
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文/Arnaud H.

 【明慧日本2022年3月24日】(前号より続く

空間の時間

 人は時空(時間と空間)という環境で生活しています。人の脳神経が思惟を伝送する時、大脳に反映する時間が瞬間的にかかりますので、人が意識している「現在」は、意識した瞬間に「過去」となっているのです。つまり、人が感じていることは単純な3次元(高さ、幅、深さ)の空間に留まるものではなく、時々刻々に時間の流れを体験しているのであり、時空という概念に存在しています。

 絵画には、時間の表現もあります。例えば、作品に動勢的な絵画、また叙事画の構図など、つまり時間の要素を平面に反映する方法です。

 最も使われている技法は、構図や光影、色彩を通して、ある動的な瞬間を表現する方法です。このような表現の仕方は、時空の一瞬を固定化して表現するもので、勢いを含んだ、よく言われる「動勢感」のあるものです。ここでラファエロ・サンティ(Raphael)が描いた『悪魔を倒す聖ミカエル』(Saint Michael Vanquishing Satan)を例として、この技法を簡単に紹介します。

图例:拉斐尔(Raphael)的《圣米迦勒战胜撒旦》(Saint Michael Vanquishing Satan),268厘米 × 160厘米,原为木板油画,后经换背为布面油画,作于1518年,现存于巴黎卢浮宫。

『悪魔を倒す聖ミカエル』

 この絵のテーマについては、多くの方がよくご存知でしょう。『ヨハネの黙示録』の聖ミカエルが悪魔サタンと戦って倒したことを表現しています。人間の姿と似かよったサタンを描き、悪魔を表すために後半部に蛇の尻尾が見られます。『ヨハネの黙示録』12章9節に「その龍は古代の蛇であり、悪魔またはサタンと呼ばれ、衆生を惑わします。その蛇は地上に落とされて、蛇の使者も同じように落とされました」とあります。画家は悪魔サタンが倒された絵を描き、正義が必ず邪悪に勝つという主旨を表現したのです。

 絵の技法として、まず光影の使い方についてお話ししましょう。この作品の光は、ユニークな美しさでデザインされています。聖ミカエルは、頭から足まで、左上から右下に向かって少し斜めの明暗の線を形成し、絵画全体の明暗を合理的に二つに分けています。左が少し明るく、右が少し暗くて、明暗のコントラストを作り出しています。また聖ミカエルの上半身は明るくて、画面の真ん中の部分は衣服と環境の固有色によって暗く、一番下はサタンの身体が光で照らされて少し明るくなっています。全体としては上から下まで、「明るい→暗い→少し明るい」となり、芸術的な光の効果を生み出しています。

 このような光の感覚は、人物の動作と、光の上から下までのベクトルと相まって、画面に大きな作用を果たしています。光線は上から照らしており、天からの光明を象徴しています。主な光源は直接聖ミカエルの頭、胸、腕を照らしており、最も明るい部分です。光源から離れたサタンは、自然と明るくならず、ここでも光が上から下まで、徐々に弱くなるように暗示しています。また聖ミカエルの上半身の明るい部分の空間は広く、下半身の部分の空間は狭く、武器の形と足の夾角は釣り合い、下に刺す矢印の形を形成し、強烈な動勢を感じさせます。

 絵画は空間芸術ですが、この空間は固定された一瞬ではなく、時間的な推移もあります。聖ミカエルが天から降臨してサタンを倒し、槍で刺そうとしている一連の推移です。人はこの場面から、自然と前後の時間の推移を連想することができます。

 色彩の観点では、正義の側の冷暖色のコントラストが、より豊かです。聖ミカエルの背後には青い空と白い雲、聖ミカエルの皮膚と甲冑は暖色で、羽翼には冷暖色、腕には青い服飾があり、これらの冷暖のコントラストが豊富な色彩感を表しています。一方サタンを見ると、身体が地面に倒れて光源から離れるので、明暗や冷暖のコントラストがより弱く、より灰色っぽくなっています。この処理手法では、正義が明るく多彩で、邪悪が暗く灰色っぽくなっています。

 同様に寓意的な構図として、正義の領域が大きく、邪悪の領域が小さいことから、正義が邪悪より偉大だと暗示しています。

 同時に、聖ミカエルの顔は正面を向いており、サタンは腹ばいになってあがいており、聖ミカエルに踏まれて起き上がろうとしても起き上がられません。このような透視図法でサタンの姿が描かれています。この技法では、人に正義の光明と力強さ、自信、美しさを見せてくれます。一方で邪悪は灰色っぽくて弱く、恐怖、醜さを見ることができます。

 この絵の全体的な感想を言えば、画家の技法は相当高いレベルです。作品の幅が大きく、人物の造形が整っており、明暗の移り変わりも柔らかく、表情も自然で、絵の情景に合っています。

続く

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2021/12/27/434469.html)
 
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