文/Arnaud H.
【明慧日本2021年7月23日】歴史をひもといてみると、「伝統文化」という概念は、非常に広い範囲をカバーしています。どの民族、国家、地区も自分たちの伝統文化を持っており、多くの文明は歴史が長く、神話時代まで遡ることができます。全体的に見て、西洋の各民族の伝統文化の中で、古代ギリシアとヘブライの文化が伝えた範囲が最も広く、後世に最も影響を与えており、西洋の伝統文明の「二本の柱」だともいわれます。
西洋文化によく言及される「ルネサンス」は、近代の人類思想、文学、芸術など多くの分野に深い影響を与えています。ルネサンスが「復興」させたのは、古代ギリシア・ローマ時代に高度に発達した文化・芸術システムであり、キリスト教文明とは大きく異なる文化・芸術体系でした。もちろん、復興の過程は複雑に入り組んでおり、本篇では割愛します。本篇は、古代ギリシア、古代ローマ時代に遡り、先史の神話から始め、入り乱れる諸説を払って正しい所見を探求したいと思います。
内容が混乱する神話
昨年、こんなに驚きのニュースがあって、世界各地のメディアも報道しました。2018年、中国で公式に検定出版した教科書『職業倫理と法律』の中で、イエスが罪を犯した女性を赦免するというストーリーを、イエスが女性を石で殺した、とのように改ざんしました。
同教科書は、『新約聖書』「ヨハネの福音書」第8章に、イエスが淫婦(いんぷ)の罪を許すという話を引用しました。もともとの物語はこのような内容です。イエスはみんなに「あなたたちの中で、罪がない人がいれば、彼女に石を投げなさい」と言いました。この話を聞いて、年長者から順に立ち去り、最後にイエスと女性だけが残った。イエスは女性に「あの人たちはどこにいるのか、あなたを罰する者はいなかったのか」と言われ、女性は「主よ、だれも」と答えた。イエスは「私もあなたを罰しない。行きなさい、これからは罪を犯してはならない」と言いました。
2018年、中国で公式に検定出版した『職業倫理と法律』という教科書は、イエスが罪を犯した女性を赦免するストーリーを、イエスが女性を石で殺したというイエスを中傷する内容に改ざんした |
『職業倫理と法律』の表紙とイエスを中傷した内容 |
しかし、『職業倫理と法律』では、次のようにまったく違う内容に再編されました。「イエスは罪を犯した女性を殺そうとする人々に、『君たちの中に、自分が過ちを犯したことのない人がいれば、前に来て彼女を殴り殺してよい』と言い、それを聞いて人々は去った。そして、イエスは石を手にして女性を殺し、『私も同じ罪人だ。しかし、何の欠陥もない人でしか法律を執行する資格を持たないならば、法律は死んでいく』と言った」
このニュースは世界中に衝撃を与え、大反響を呼び、最終的にその教科書は店頭から撤去されました。しかし、ご存知のように教科書は書籍の中で高い地位を保っており、多くの教師と学生によって日夜研究され、勉強されており、もし彼らが『聖書』に書かれた本当の物語を知らなかったら、イエスが殺人者だと勘違いしたでしょう。
昔から、宗教を信じない人にとっても、イエスは神の子で、道徳の模範とされてきましたが、このような偉大な覚者が現世の教科書に、悪意に満ちた中傷を受けました。教科書を利用して広い範囲でうその内容を広める行為は、人類の道徳に対してどれだけ大きなダメージを与えるか想像に難くありません。
今では、厳粛な出版物であるはずの教科書まで改ざんされているのですから、もっと古い歴史、もっと古い文化は、改ざんされることも有り得たのではありませんか。
ギリシア神話は、イエスが生きる時代よりも前に出現していたため、彼らの神話に出てくる神々はまったく崇拝されないほど改ざんされています。古代ギリシアの神であるゼウスは現在、その名前は雄犬の名前として広く使われており、西洋諸国では常に、犬の名前のランキング上位に入っています。
今日まで続いている文化の中で、古代ギリシアの神々は貪欲、色欲、嫉妬、残忍など多くの負の特徴を持つように書かれています。悪人が持つすべての私欲と魔性を彼らは持っていて、善良さと正義が見えません。ゼウスはさらに悪が溢れるように描かれています。しかし、古代ギリシア文献には、それと正反対な記述が見受けられます。文献には、ゼウスは正義と知恵の化身であり、人間に対してとても公正で偏りません。人々が善良に生きていく時、ゼウスは豊作と生活を豊かにし、人間が悪事を働くと、ゼウスは天災と罰を与えます。
古代ギリシアの詩人ヘシオドスの彫像。中国では、美術の大学入学試験によく見られる石膏像の一つで、中国の美術界では知らない人がいない。しかしその髪型や顔つき、表情が原因で、何十年もの間、中国では受験生や一部の美術教師から当然のように「海賊」と誤解されている |
紀元前8世紀の古代ギリシアの詩人ヘシオドスは『労働と日々』という叙事詩に「ゼウスは人間に正義という最高の贈り物を与えた。正義を知り正義を貫く人に、何でも知っているゼウスは幸せを与えてくれる」と述べています。
「古代世界の七不思議」の一つとされるオリンピアのゼウス像のイメージ図。フランスの考古学者によって1815年に描かれた。像自身は古代ギリシアの彫刻家によって紀元前435年ごろに完成し、オリンピア城のゼウス神殿に安置されている。像の高さは約12メートルで、銅・宝石・象牙・金で造ったと伝えられている。古典によると、ゼウスは片手に杖、片手に勝利の女神を載せ、威風堂々と王座に座ったという。像は5世紀に火災で消失したが、世界の注目を集め、とびぬけてすぐれた芸術作品として、「古代世界の七不思議」の一つと評価された。 |
「凶暴な悪行をする人に、クロノスの息子で千里眼を持つゼウスは処罰を下す。一人の悪人のために都市全体が処罰されることもあり、ゼウスは飢饉と疫病をその都市に与える。女は子を産まず、家も破壊されて減少、ゼウスはさらに彼らの巨大な軍隊を消滅し、城壁を破壊し、海上の船を沈没させる」と、ヘシオドスは権力者に悪行を戒めました。数千年前の詩作ですが、疫病が猛威を振るい出生率が減少する今日においても、戒める力は弱まっていないのではありませんか。
古代ギリシア文明の後期に入って、文学者の気まぐれな創作、民間の伝承などによって、ギリシア神話には数多くの異なるバージョンが多く現われました。結局のところ、伝説を主体とする神話物語は厳粛な歴史ではなく、古代ギリシアは多数の小さい都市国家から構成され、どの都市国家にもそれぞれ異なる神話伝説があり、ギリシア神話体系は地区、時代、バージョンによってたくさんの矛盾した内容が存在しています。
(続く)