改ざんされた神話と本当の伝統(二)
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文/ Arnaud H.  

 【明慧日本2021年7月24日】(前文に続く)

 今日、人々のギリシア神話に対する理解はだいたいホメロスとヘシオドスが伝えてきた叙事詩に由来します。二つの叙事詩は大きくいえば、ギリシア神話を如実に記録した二大体系といえますが、それでも内容に矛盾するところがあります。2人以外に、劇作家のソポクレス、叙情詩人のピンダロス、悲劇詩人のアイスキュロスなど多くの文学者による創作もあり、各バージョンの相違をさらにもたらしました。

 また、古代ギリシアの主流信仰以外の信仰団体も、教義によって主流と異なる神話バージョンを作っているので、ギリシア神話の体系を更に複雑にさせました。

 多くの読者が西洋神話をあまり知らないことを配慮して、ここでは人々が最もよく知っているアテナとアポロだけを例に挙げます。

 アテナが「パラス・アテナ」と呼ばれることを知る人は多く、広く知られるバージョンでは、アテナが親友の妖精パラスと格闘練習中に誤って彼女を殺害してしまい、アテナは悲しみに暮れ、亡くなった親友を追悼するために自身の名前をパラス・アテナに変えたといいます。

图例:奥地利议会大厦前的帕拉斯·雅典娜雕像(Pallas Athene Statue),建于1893 ~1902年。雕像展现了雅典娜头戴战盔,胸背披甲,一手持矛,一手托着胜利女神的姿态。

1893~1902年に建てられたオーストリア議会議事堂前のパラス・アテナ像。兜と鎧を着け、片手に槍を持ち、片手に勝利の女神を載せている

 しかし別バージョンでは、アテナに殺されたパラスは男の巨人であり、ゼウスの支配に反抗したため、巨人族との戦い(ギガントマキアー)でアテネに殺されたといいます。

 もう一つのバージョンでは、アテナが殺害したのはパラスという名前のチタン神(ギリシア神話の中の古い神族)であり、巨人族との戦いとは無関係だといいます。

 もちろん、ギリシア神話にはもっと多くの説があります。元々アテナ女神の名前は「パラス」といい、女神に対する崇拝がきっかけで、彼女の名前が「アテネのパラス」を意味する「パラス・アテナ」に変更された、という一説もあります。

 「ポイボス・アポロ」と呼ばれる文芸の神、光明の神、太陽の神も、名前をめぐって紛らわしい事情があります。ギリシア神話では、太陽の神という身分においても複数の人物が存在します。これら複雑なバージョンは後世の人々を混乱させています。

图例:阿波罗持琴座像(Apollo seated with lyre),由斑岩和大理石制成,作于公元二世纪,现存于那不勒斯国立考古博物馆。(网络图片)

斑岩と大理石で造られた、琴を持つアポロ座像。紀元2世紀に完成され、ナポリ国立考古学博物館に現存する

 十二チタン神の時代には、大地の女神ガイアと空の神ウラノスの間の子供、ヒュペリーオーンは光と太陽を司る神だったのですが、彼の息子のヘリオスが神話に登場すると、両者が混同されるようになりました。ヘリオスは毎日太陽車に乗って空を渡り、世界に光をもたらすため、太陽神とも思われています。時代の移り変わりとともにギリシア神話の様々なバージョンが重ねられ、多くの人はまたヘリオスをゼウスの息子アポロと混同しました……。

 このような混沌としたバージョンの弊害は、誰が誰なのかを明らかにしないことに限れば、まだ人間の道徳を大きく損ねるほどでもありません。しかし、文人と民衆が個人の好みから勝手に物語を作ることで、文化を危険な道へと突き落としました。

 紀元前7世紀末以降、ギリシア神話の各バージョンの中の人物は、だんだんと複雑に入り混じった系統になり、人物の間の関係、交流、インタラクションは密接になりました。その中で、男性神と男性の英雄の間のインタラクションを描く神話が次々と現れ、本来の純粋な友情と尊敬を表現する物語は次第に味が変わり、道徳の堕落、刺激を追求するという病的心理の下で、男性同士の同性愛の発展を促進しました。

 そのような風潮は古代オリンピックの競技にも関係があると筆者は考えています。当時の五輪は男性のみが出場を許され、選手は全裸でなければならないという規則があり、男性の体の美しさを鑑賞することが推奨されました。オリンピック競技は古代ギリシアの主要な祭典の儀式の一つとして、民衆の中で大きな影響力を持っているので、人々は次第に男性の裸の美を鑑賞することに慣れました。しかし人類の欲望が強大になり道徳が堕落した時になると、力と人体の美を鑑賞することから、男性同士の同性愛に発展していきました。

 当時は女性の同性愛も現れたのですが、古代ギリシアでは女性の社会的地位が低かったため、レズビアンは大きな波紋を起こしませんでした。

 男性の同性愛者の数が増えてから、文人と芸術家は大衆の心理に迎合するために、多くの同性愛の作品を創作しました。紀元前5世紀の文学や美術からも分かるように、多くの男性神と男性の英雄の周りに少なくとも1人の青年男性が伴侶として登場しています。

 このような状況は一見荒唐無稽に見えますが、現在の社会現象ととても似ています。第二次世界大戦後の欧米社会はかなり風紀が緩みましたが、同性愛を不道徳な行為とみなしています。しかし数十年後の今日、多くの国が競って「同性婚」の合法を宣言し、多くの政治家は自ら同性愛を嫌悪しても、世論の圧力の下で同性婚を公に支持せざるを得ません。文人と芸術家は作品を売るために、古代ギリシア時代の同業者と同じように、映画・テレビ、文学、芸術の領域でそういうことを大々的に宣伝します……。インタラクションとインタラクション二つを並べて比較すると、改ざんされたギリシア神話は実は古代の「現代派」思想に相当し、正真正銘の伝統ではないことが分かるでしょう。

 人類文明は常に一定の道徳規範に従って維持されており、そうでなければ破滅になります。これは神の意志であり、歴史の法則であり、社会の必然です。堕落した「文化」は人類に一時的な刺激を与えることはできますが、長続きしません。そのため、紀元前5、6世紀に全盛期を迎えた古代ギリシアは100年の繁栄を維持しただけで、その後、次第に没落していきました。

 趣味や心が悪くなった後、人々はずる賢いことを光栄に思い、正直さを愚かだと見なしました。人間の心が悪くなっていくうちに多くの社会問題と対立が生じ、絶え間ない内戦がギリシアの各都市国家の実力を弱めて、ついにローマの台頭で、ギリシアは紀元前2世紀に歴史の舞台から消えました。

 (続く)

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2021/6/4/426400.html)
 
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