「地球を管理せよ!」――中国共産党による米国司法への影響
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文/徐谷 

 【明慧日本2025年3月26日】周知のとおり、アメリカの司法制度は三権分立を基盤としており、行政・立法・司法の権限がそれぞれ独立し、相互に抑制・均衡を図ることで、権力の集中と濫用を防いでいる。アメリカでは、連邦政府から各州政府に至るまで権力が三分され、最高裁判所および下級裁判所は独立して訴訟や紛争の審理を行う司法権を行使している。

 一方、中国共産党は「党がすべてを支配する」体制をとっており、党の意志、党幹部の意志がそのまま法律となる。公安・検察・裁判所・司法機関はその組織から権限に至るまで、すべて中国共産党の完全な支配下にあり、その目的は権力を集中させ、濫用を容易にすることにある。このため、中国共産党が掲げるいわゆる「法治」と、アメリカの立憲法治とは全く異なるものである。中国共産党の最高人民法院(最高裁)から各級裁判所に至るまで、その司法裁量権は法律の衣をまとった「党の権力」の表れに過ぎず、裁判所は中国共産党の政治的な「鉄槌」となっている。

 この二つの制度のどちらが優れているかは一目瞭然だ。中国共産党は常に世界中で社会主義制度の優位性と、共産主義者が人類を解放する使命を果たすべきだと宣伝しており、当然ながらアメリカの制度を容認することはできない。過去20~30年間にわたり、中国共産党はアメリカへのあらゆる分野での浸透を進めており、特にアメリカの司法制度に共産主義の影響力を及ぼすことは、その中でも重要な戦略の一環となっている。

 ここで、実際に起きた二つの事件を紹介しよう。ひとつは20世紀の1950年代に中国の司法界で起きた事件、もうひとつは1990年代にアメリカの司法界で起きた事件である。

 1950年代に騒がせた清華スパイ事件

 この事件は1950年代の北京・清華大学で起きた。1955年、毛沢東は新華社の責任者・呉冷西に「地球を管理せよ! 世界中に我々の声を届けるのだ!」と言った。当時、中国共産党の司法機関は、思想改造(洗脳)を通じて、あるアメリカ人夫妻を社会主義の宣伝ツールに仕立て上げ、太平洋を越えてアメリカにまでその影響を及ぼそうとしていた。

 2008年、英達の父であり、故・元中国共産党文化部副部長の英若誠の英語自伝『Voices Carry』が海外で出版された。そこでは、彼が1950年代に妻の呉士良とともに彭真のために働き、国家安全部のエージェントとして、交友関係を利用して在中外国人や駐中国外交官の情報を収集していたことが明かされている。

 1951年、英若誠は清華大学に勤務していた若いアメリカ人学者夫妻、李克(John Leighton Stuart)と李又安(Wilma Fairbank)を中国共産党に密告し、彼らがアメリカのスパイであると報告した。李克はかつてアメリカ海兵隊の翻訳官であり、第二次世界大戦後に妻と共に清華大学で教鞭をとっていた。夫妻は、中国の街角や新聞の雑多な情報を集めることが好きだったが、それが国家安全部によってスパイ行為とみなされた。彭真は英若誠に対し、夫妻の「犯罪」の証拠を集めるよう密命を下した。

 英若誠は毛沢東の「引蛇出洞(おびき出して捕らえる)」の手法をこのアメリカ人夫妻に適用した。彼は自宅で多くの同級生を招いてパーティーを開き、自由に語り合う場を提供しつつ、李克夫妻の「反動的」発言を密かに記録し、国家安全部に提出した。その結果、夫妻は逮捕され、1955年9月に判決が下された。夫は懲役6年、妻は4年6ヶ月の刑を言い渡された。これが当時大きな話題となった「清華スパイ事件」である。

 しかし、このアメリカ人夫妻の運命は意外な展開を見せた。洗脳術に長けた中国共産党は、司法システムを利用して夫妻に対して巧妙な「説得」と「教育」を施した。彼らに特別な待遇を与え、他の囚人には認められない個人的な権利や生活支援を提供し、中共の「寛大さ」と社会主義の「優越性」を印象づけた。この偽りの善意により、夫妻は次第に中共の策略にはまり込んでいった。さらに、中共が意図的に裁判を長引かせたため、判決の重圧と自由への渇望が「ストックホルム症候群」を引き起こした。夫妻は深く悔い改める姿勢を示し、教官の指示通りに「今後アメリカで中国の良い話を広める」と約束した。中共は「魚が釣れた」と見て、判決後すぐに夫妻を釈放し、投獄することなくアメリカへ送り返した。

 夫妻がアメリカへ戻ると、実際に『二人のアメリカ人スパイの告白』という回想録を出版し、社会主義の優位性を称賛し、アメリカが中国を悪魔化していると主張した。当時、アメリカではマッカーシズムによる反共運動が激化していた。中共は、あらかじめ計画していた通り、洗脳した李克夫妻を利用して、中国のイメージを回復しようとしたのだ。この『二人のアメリカ人スパイの告白』は、まさに司法版の『西行漫記(Red Star Over China)』とも言える作品だった。ただし、その影響力は後者には到底及ばなかったのだが。

 1990年代の李文和核スパイ事件

 前述のアメリカ人夫妻の話は、中国共産党が自国の司法制度を利用してアメリカ人を洗脳したケースだった。これに対し、次に紹介する事件は、中共による海外への影響力拡大と長腕管轄(域外適用)の典型例であり、中国共産党が長年にわたりアメリカの司法界に浸透し、影響を与えてきたことを示している。

 1988年、中国は中性子爆弾の実験を行った。その後、アメリカの情報機関は、中国が使用した技術がアメリカのW-88核弾頭の盗まれた機密情報に基づくものであると突き止めた。アメリカは、ロスアラモス研究所に勤務する華人科学者・李文和が、核機密データを個人のコンピュータにダウンロードしていたことを発見した。さらに、1988年に彼が中国を訪れた際、中共の核兵器専門家2名と直接会談していたことが判明した。しかし、李文和は帰国後、この件を研究所の安全管理部門に一切報告していなかった。

 1999年、アメリカ連邦捜査局(FBI)は、李文和が中国のためにアメリカの核機密を盗んだ疑いがあるとして逮捕した。しかし、数か月間の拘束の後、彼は無罪となり釈放された。さらに、アメリカ政府は彼に公式に謝罪し、その後、李文和はアメリカ政府とメディアを相手取り訴訟を起こし、約160万ドルの賠償金を勝ち取った。これが1990年代に大きな波紋を呼んだ「李文和核スパイ事件」である。

 なぜ彼は無罪となったのか? 表向きの理由は「証拠不十分」とされたが、実際にはアメリカ司法省、エネルギー省、情報機関が強い政治的圧力を受けたためだった。1972年、ニクソン訪中後、米中関係は大幅に改善され、アメリカ政府は「経済援助を与えれば、中国人民は民主と自由に向かう」と誤認していた。1999年前後、クリントン政権は中国に対する恒久的最恵国待遇(PNTR)の付与とWTO加盟を積極的に推進していた。このような状況下で、李文和を国家安全保障上の脅威と断定することは、政治的に「不適切」と見なされた。

 当時、中国共産党はあらゆる手段を駆使し、アメリカの司法界に影響を与えようとした。海外の華僑連盟、留学生組織、在米中国人団体、さらにはメディア世論を動員し、「李文和逮捕は人種差別の産物であり、彼は人種的迫害を受けている」と大々的に宣伝した。このような圧力のもと、アメリカの司法界は李文和と妥協することを余儀なくされ、彼は「核機密の不適切な取り扱い」という軽罪を認めることで、司法省は彼に対する50以上の国家安全保障関連の罪状を取り下げた。

 中国共産党の指導者たちは、毛沢東、鄧小平、そして現職の党首に至るまで、一貫して「中国は三権分立を採用しない」と明言してきた。しかし、これは単に「中国国内で三権分立を実施しない」という意味にとどまらない。「我々はやらない、お前たちにもやらせない。共産主義こそが世界統一の未来であり、社会主義体制こそが人類の運命共同体である」という、より深い意味が込められているのだ。

 中国共産党の司法浸透がアメリカの利益を損なっている

 近年、中国共産党は次のように強調している。「法治を通じて党の方針と政策の確実な実施を保証し、法的手続きを経て党の主張を国家意志とする」「人類運命共同体の構築推進をしっかりと把握する」「対外法治戦略の展開を加速する」。これは極めて明確なメッセージであり、法律戦を仕掛けることで、中国共産党の世界戦略を実現しようとする意図がはっきりと表れている。

 アメリカの法律体系を利用して、アメリカや中国共産党の敵対勢力を攻撃することは、中共がアメリカに深く浸透するための有効な戦略の一つとなっている。これは極めて長期的な戦略である。

 アメリカの中国経済アナリストであり、『中国の世界経済拡張』の著者であるアントニオ・グレースフォ(Antonio Graceffo)は次のように指摘している。「中国共産党は、忠誠心のある人間をアメリカに送り込み、彼らに全額奨学金や資金援助を提供し、法科大学院に進学させ、弁護士資格を取得させる。数年後には彼らが法律事務所を設立し、現在すでにこうした事務所が存在している。その後、中国政府はさらに人員をこれらの事務所に送り込む」

 アメリカにいるこれらの中共代理人たちは、アメリカの法律や政策に精通している一方で、頭の中には中共のイデオロギーが刷り込まれている。狭隘な民族主義や愛国主義の影響を受け、中共から利益を与えられると同時に、国内にいる家族の状況を人質として利用され、中共に従うように仕向けられる。

 中共は、育成した代理人に直接アメリカで法律事務所を設立させるだけでなく、アメリカの有名な法律事務所内に「中国関連の国際業務部門」を設立することでも、自らの目的を達成しようとしている。これらの弁護士事務所は、中共の国有企業、軍民融合企業、中共高官などの海外事業を支援し、アメリカの利益を損なう法律業務を行っている。具体的には、中共企業のアメリカでの買収、上場、市場独占の支援、さらにはアメリカの法律制裁を回避する手助けをしている。

 特に注目すべき点は、中共が進歩主義者、リベラル派、環境保護主義者などの左派思想を持つ人々を利用していることだ。中には自称「反共」を掲げる者もいる。多くのアメリカ州裁判所の判事や弁護士事務所の関係者は、左翼思想の影響を強く受け、「民主」「自由」「人権」といったスローガンを掲げながらも、中共の本質的な悪を見抜くことができず、結果として中共の影響下に置かれ、海外での弾圧の道具となってしまっているのである。

 共産主義の毒を見極め、中共の浸透を抑えよ

 アメリカの憲政制度の根幹は「天賦人権」にあり、人権は創造主、すなわち神によって与えられたものである。アメリカ建国の父たちは「神の下にある」という原則と理念に基づき、三権分立制度を設計した。しかし、共産主義の左派勢力は意図的に神を排除し、神を称えることさえ禁じ、無制限の言論の自由や極端なリベラリズムを憲法に基づく当然の権利とみなす。これはアメリカ憲政制度の誤読と歪曲である。

 進歩主義やリベラル派の思想や流れによって、薬物使用、同性愛の合法化、略奪・破壊行為の軽犯罪化といった非道徳的あるいは犯罪的行為に正当性や合法性が与えられてきた。一方で、公職者が厳格に法を執行すること、親が子供をしつけること、教師が生徒を教育することは、人権侵害や自由の妨げと解釈されてしまっている。このような自由主義の極端な解釈が司法界にも入り込み、法律を歪め、アメリカ憲法の神聖さを損なう結果を招いている。その隙を突く形で中共は法律戦を仕掛け、アメリカ国内を混乱させ、国民の正当な権利を侵害し、ひいてはアメリカの主権すらも脅かしている。

 現在、中共はアメリカで法的手段を用いて神韻や法輪功を攻撃している。その中には自由主義の名のもとに神韻や法輪功の信仰を誹謗中傷する者たちもいる。中国の伝統的な教本『三字経』には「養わずして教えざるは父の過ち、教え厳しからざるは師の怠り」とある。自由主義を口実に信仰や宗教学校の教育を弾圧することは、決して生徒のためではなく、生徒を堕落させ、社会を破壊し、アメリカを蝕む行為であり、それこそ中共が最も望むことである。

 進歩主義や自由主義に惑わされながらも反共を掲げる人々は、一度慎重に考えてほしい。なぜ中共はこれほど長きにわたり、執拗に法輪功を迫害し続けているのか。国内の弾圧だけでは飽き足らず、なぜ国外にまでその迫害を拡大しているのか。それは、法輪功がこの世の執着を持たず、いかなる世俗の利益も求めず、中共に浸透されることも、買収されることも、暴力や圧力に屈することもないからである。そして何より、中共の邪悪な本質を最も明確に見抜いているからこそ、中共は恐れ、憎んでいるのだ。

 法輪功には敵はいない。法輪功が提唱する「三退(共産党、共青団、少先隊からの脱退)」の目的は、中共という邪悪な存在を解体することであり、それと敵対することではない。むしろ中共に敵対する価値すらないのだ。しかし、中共の法律戦の代理人として法輪功を攻撃する者は、意識的であれ無意識であれ、実際には中共の手先となってしまっている。

 もしアメリカが、裁判で訴訟を提起する際に外国からの資金提供の情報や中共政府との関係を開示することを義務付ける法律を制定できれば、共産主義という悪魔はもはや隠れる場所を失うだろう。

 
翻訳原文(中国語):https://www.minghui.org/mh/articles/2025/1/6/488013.html
 
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