千金に値する妙薬は徳と善なり
■ 印刷版
 

 【明慧日本2021年11月4日】王様に仕えていたある料理人が、年齢を理由に都を離れ、故郷に帰りました。その男は金持ちで、名声もありましたが、一日中特にやることもなく、男はそれが耐え難かったので、有能な人々を集めて雇い、居酒屋を開きました。来る人は皆そこに住む人々なので、その居酒屋は徐々に、暇をつぶし、昔を懐かしむ憩いの場となっていきました。特に用事がなくてもそこへ来て座ってお喋りをしたり、友人を招待したり、非常に陽気な場所でした。

 ある日、その町が属している郡の一帯に疫病が大規模に流行り始めました。都からも50キロほどしか離れていなかったため、朝廷は治療のために医療チームを派遣しました。しかし、長い間その病気の原因を見つけることができず、多くの種類の薬を使っても症状を改善することができなかったのです。

 疫病の勢力はますます大きくなり、目の前にいる百姓たちがバタバタと倒れていくのを見た人々は、恐怖とパニックに陥りました。どんなに裕福な人でも、どの薬で治すことができるのかが分からないため、持っている自慢のお金で薬を買うことはできませんでした。

 つい先ほどまで元気だった人が、振り返ると地面に倒れて亡くなっています。かつて賑やかだった通りは、瞬く間に閑散としてしまいました。また、帰る家もなく、重い病を患った人は数歩あるく間に倒れて命が絶たれてしまいました。通りには、ほったらかされた死体があちこちに転がっています。恐怖に襲われ、立ち尽くした人々は、人の「命」はそれが「幻」や「夢」のように短いものだと嘆き悲しみました。この疫病はまた、宮廷の上下の役人を悩ませ、宮廷内外の高官を恐怖に陥れました。どんなに権力と富を得て栄えていても、名誉と利益があっても、時には価値がなくなり、生命を守ることさえできず、なにより命が一番大切だと気づいたのです。

 この光景を見ていた宮廷の元料理人だった男は、早々と居酒屋を閉店し、外界との接触を断ち、一日中大きな屋敷に閉じこもっていました。しかし、彼によって固く閉ざされていたにも関わらず、病魔の手はどのような障壁も越えて、この男の身に伸びていき、彼は体力を失い始め、しばしば痙攣(けいれん)や眩暈(めまい)、血便、嘔吐が彼を襲いました。

 彼は、もう自分に残された日は少ないと感じ、自宅の高いところへ行き、市街地内外や辺りの民家を眺めていました。眺めているうちに、不意に悲しみ、慈悲を感じ、そして、涙を流してため息をつきながら、「ああ、名声はどこにあるのだろうか。料理人であった私の昔の時代が懐かしい。天下に名を轟かせ、どんなに地位が高くても、疫病の前には無力と化してしまった。災いや幸福がいつやってくるか、だれが保証できるだろうか…」と嘆き悲しみました。

 彼は考えました。「どうせ自分はもうすぐ死んでしまう身だ。金や銀、倉いっぱいの衣服や食糧をため込んで何の意味があるだろうか。それなら、貧しい人々に分け与えて、お腹いっぱいに食べてもらい、しっかりとした服を着てもらい、生き延びてもらったほうがよっぽどいい。そして、不幸にも疫病にかかって亡くなってしまった人も、しっかりと彼らの祖先に会えるようにしよう。よし、それがいい」と決めたのです。

   人が真に心からの思いを動かすのは、誠に貴重なことです。

 そのように考えると、男の疫病に対する恐怖と臆病さは消えていきました。浩然とした正気が心を満たし、身体にも気力がみなぎっていくように感じました。その後彼は決断を下しました。居酒屋の扉を開き、度胸のある人々を集め、毎日そこで貧しい人のためにお粥を作らせ、彼の使用人たちに、予備の衣服を取り出し、服がボロボロであったり、着る服がなかったりする人々にそれを与えました。また、道端にそのままにされている遺体に対しても人を派遣し、丁重に埋葬しました。

 この男のこのような行動を見た多くの裕福な人は、追随していきました。どうせ死んでしまうのだから、ただ死ぬより、いっそ価値や意義のある死のほうがよい、と多くの人が思ったのでしょう。不思議なことに、人々の疫病に対する恐怖が少しずつ消えていき、閑散としていた街も、だんだんと活気を取り戻していきました。

   その後、町中の至る所に人気が戻り、皆が皆互いに心を配り、慰めあったり、温和で礼儀にかなうようになりました。また、喧嘩をする人や不良などもいなくなり、遊女でさえ自重するようになったのです。一カ月後、元料理人のこの男は、体が元気になっていくのを感じ、顔色も以前のように赤みがさしつやつやしているのがわかり驚きました。

 ある日、男が眠りにつくと、ある道家の仙人が仙鶴に乗って自分のもとへ飛んでくるのが見え、彼のそばでこう告げました。「徳と善こそが千金に値する処方箋なのだ。世の中を救うのにどうして煎じた薬が役に立つだろうか。人界を離れたところに不思議な力で妙薬を作った。お前さんの徳はみなを救うに値するものだ。是非この妙薬を受け取るのだ」

   夢の中でこの男が両手でそれを受け取ると、瞬く間に目を覚ましました。はっとして見てみると、その両手には本当に一箱の薬がありました。男は喜びをこらえきれず、仙人がやってきた方向に向かって何度も拝しました。次の日、男は箱の中にあった処方箋に従い、薬を分けていくつかの大鍋の中でとかし、地域内外の病人に配ると、その効果は奇跡と呼べるほどで、病人たちはすぐに回復していきました。

 また、その男は自らその薬を都へ持って行きました。数カ月にも及んで暴れまわった疫病も、元料理人の男の徳によって終わりを迎えました。皇帝はその妙薬の話を聞いた後、沐浴をして衣服を着替え、静かな部屋で一人懺悔しました。その後、精神統一を行い、敬虔に、敬意をもって大きく字を書きました。「千金に値する妙薬は徳と善なり」

 
(中国語:http://www.minghui.org/mh/articles/2020/2/1/400559.html)
 
関連文章