【明慧日本2019年7月28日】
竜を治療する
孫思邈は数え切れないほどの患者の病気を治癒させただけでなく、しっかりと修煉をして医者としての道徳水準も高かったため、竜を治療し、虎を救い、人間だけではなく異なる種類の動物までも助け、その影響力を広く及ぼしたという、神話伝説も数多く残っています。
ある雷をともなった激しい雨の夜、孫思邈の山の断崖の下に作られた茅屋の扉が叩かれました。彼が扉を開けて見ると、そこには白衣を着た書生が立っていました。当時は稲妻が光り、雷が落ち、土砂降りの雨が降っていましたが、不思議なことに、この書生の着物はまったく濡れていませんでした。孫思邈が「あなたは病気を診てもらいたいのですか?」と聞くと、白衣の書生が頷きました。
彼を家に入れて座らせ、そして脈を取りました。孫思邈は、「あなたは人間ではないですね?」と言うと、白衣の書生はびっくりしましたが、すぐさま落ち着きを取り戻し、「どうして分かったのですか?」と聞きました。孫思邈は笑顔を浮かべ、「あなたが来た時、稲妻が光り、雷が落ち、暴風雨が加持してくれましたね。あなたがここに座ると、風も、雷も、稲妻も全部止みました。あなたの着物は暴風雨の中でも少しも濡れていないし、その上、あなたの脈はすべて特異な性質を示しています。もし間違っていなければ、あなたは水府の神-神竜ではないでしょうか?」と言いました。白衣の書生はそれを聞いてしきりに頷き、「さすがに孫真人(孫思邈は薬上真人と尊称される)のお名前が天上にも地上にもよく知られており、本当に評価された通りですね」と言ってから、自分の病状を言いました。「数日前に、お腹が減った時に急いで食事を取り、食べ物がのどに詰まってしまいました。この数日間、ずっと気分が非常に悪く、毎日、お粥と汁物だけで辛うじて体を維持しています」と言いました。
それを聞いた孫思邈は召使の少年にバケツいっぱいの煎じ薬を書生の前に持ってこさせ、「これを早く飲んでください。途中でやめずに一気に飲みなさい。さもなければ病気は治りません」と言いました。
書生はバケツを持ち上げ、一気に煎じ薬を飲み干しました。すると、お腹の調子がおかしくなり、吐き気を感じて我慢できず、「うおっ」と言って、バケツに激しく嘔吐しました。白衣の書生は自分が吐き出した汚物の中になんと1匹の蛇が入っているのを見てびっくりしました。彼は心から「真人の特効薬は実によく効きますね!」と褒めました。孫思邈はハッハッハと笑って、「特効薬なんかではないですよ。バケツいっぱいのお酢とすりおろしたニンニクをかき混ぜたものです。それが酸っぱくて辛くて、蛇は当然お腹にいられなくなっただけです」と言い、さらに、「あなたの病根は取り除かれましたが、元気をまだ取り戻していません。そこで、元気が出るように針を打ちましょう。そうすれば、完全に治ります」と言いました。書生は「それはありがたい、ありがたいですね」と重ねて言いました。
孫思邈は彼の後ろに来て、1本が30センチほどもある長い針を取り出し、彼の頭のてっぺんの少し後ろの位置から針を一気に差し込みました。書生が声を上げると直ちに正体が現れ、一匹のキラキラ銀色に光るバケツの太さの巨大な竜が現れました。竜は地面にぐったりとして少しも動かずに、大きな目をしてじっと孫思邈を見つめていました。孫思邈は「針を抜き取ったら、あなたはすぐにあの石の壁に向かって飛び出しなさい。もしあの山の石壁を抜けられ、雲の上に乗り上がることができれば元気を取り戻せます」と言いました。そして、彼は竜の体から針を抜き取り、「さあ、早く岩石を抜け出し、飛び上がれ」と叫びました。白い竜は体を動かしながら直ちに岩石に向かって飛び立ち、あっという間に、あの石壁から姿を消してしまいした。それ以来、あの石壁には広くて深い洞窟が出来てしまいました。
しばらくすると、空中からあの白衣の書生の声が聞こえて来ました。「孫真人の高徳の威力はわれわれまでも助け、本当に仙人のお手本です。私は直ちに水府に戻って水害を防き、人々を干ばつから救い、永遠に人類のために幸福をもたらします!」。孫思邈はドアを開けて外を見ると、天空には一筋の稲妻がピカッと光り、あの大きな白い竜の銀色の体は雲の間を嬉しそうに動き回り、そして、広大な天空へと姿を消しました。
虎を救う
一度、孫思邈は山を下りて患者を治療に行きました。帰りに、藪の中から突然、1頭の目をつり上げ、白い額をしている大きな虎が飛び出して来ました。長く修行をしてきた孫思邈は俗世間を超越し、生死をすでにあっさりと見るようになってはいましたが、この時ばかりは、やはり突然のことで大変驚きました。
虎は孫思邈がびっくりしているのを見て、彼から1メートルほど離れた場所にとどまり、2本の前足を収めて地面に腹ばいになって、人が叩頭するようなしぐさをしました。孫思邈はとても不思議に思い、「この山の王はまさか私に治療してほしいというのか?」と思い、そこで、「おまえは何か病気にかかったのか? 治療してほしいのか?」と聞くと、虎は頭を地面に続けて3回付けました。
しかしこの時、「竜王は神霊の種だが、獣の王は残忍な種だ。虎は腹が減ると人を襲うし、誰でもこのような野獣を殺したいと願っている。もしこいつを治療すれば、悪名高い紂や桀のような悪人を助け、悪事を働くことになるのではないか?」と孫思邈は思いました。そこで、「私には悪漢を治療しないし、妖怪も治療しない、ましてや人を殺害するものなど治療しないという三原則があるが、おまえは山の狂暴な野獣で、おまえの病気を治したら、人殺しを手伝うことになるではないか」と言って、頭を上げて胸を張り、前へ進み出ました。
すると虎はしっかりと彼の後ろに回って、口で彼の服に軽く噛みつき、「ウオー、ウオー」と鳴きながら、目からなんと涙を流しました。孫思邈は修行の人で深い慈悲心を持っており、虎がこれほど苦しみ悲しんでいるのを見て、思わず涙を流しました。そこで彼は立ち留まり、「どうしても治療してほしいのならば、これから先、人を傷つけないと約束するか」と言うと、虎はくわえた彼の服を放し、羊のように腹ばいになって、頷いて承諾しました。
孫思邈はさらに、「人間にも約束を守らない者がいるが、おまえに約束を守らせるために、これから毎日、私の所にやって来て口を開けて見せ、おまえの牙をチェックさせてもらうがそれでもいいか」と言いました。虎はそれを承諾しました。
そこで、孫思邈は虎のために治療をしてやりました。
この虎は本当に信義を重んじ、それからというもの、虎は毎日孫思邈の前後で護衛をしてくれました。孫思邈が山に入って薬草を採集すると、虎は薬草のかごを背負い、スキをくわえて着いていきました。孫思邈が往診に行くと、虎は薬箱をくわえて馬になって彼を背に乗せ、忠実なる護衛として、また、召使いになってくれました。古代の漢方医はみな薬箱を背負い、手には鈴の着いた長い杖を持ち、街を回ってはリンリンと鈴を鳴らして客寄せをしていましたが、その鈴の着いた杖は当時、孫思邈が獣の王を治療した際に、虎の口を大きく開けさせ、手が中に入れられるように支えるための医療道具だったのだそうです。