正義と邪悪の前に、「中立」という立場は存在しない
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 【明慧日本2020年8月23日】米国のボストンにあるニューイングランド・ホロコースト記念碑の外の石碑には、有名な詩が刻まれている。「最初、共産主義者が狙われた時、私は沈黙を守った。私は共産主義者ではないからだ。次に、労働組合メンバーが追い詰められた時、私は黙って声を上げなかった。私は労働組合メンバーではないからだ。次に、ユダヤ人が追い詰められた時、私は沈黙を守った。私はユダヤ人ではないからだ。次に、カトリック教徒が追い詰められた時、私は沈黙を守った。私は新教徒であるためだ。最後に、私が追い詰められた時、私のために声を上げる人は誰もいなかった」

 この詩が街の中心、人々の目につく場所に書かれたのは、「沈黙は一時的に沈黙者の通行許可書になっても、結果的には沈黙者の墓標になるのだ」という事を訴え、正義と邪悪を前にして、正義のために声を上げなければならず、中立という立場はないことを訴えている。

 一、「中立」の代償

 『清史稿』の列伝三十六「康煕朝実録」には、次のような話が記載されている。康煕6年(1667年)、14歳の康煕帝(こうきてい、清の第4代皇帝)は親政(君主が自ら政治を行う)を始めた。当時の朝政は横暴に振る舞い、徒党を組んで私利を計るオボイによって独占されていた。オボイは康煕帝に嘘の話をして、補佐大臣のスクサハを殺害し、さらに官吏による皇帝への忠告を禁止しようとした。朝廷内にはオボイの一味が至る所にいて、官吏達はオボイを恐れて誰も黙って声を上げなかった。

 当時の朝廷で、オボイに対抗できるのは開国の大臣・エビルンだった。先帝の順治帝(じゅんちてい、清の第3代皇帝)はエビルンを補佐大臣に任命し、その地位をオボイの上にし、オボイの権限を抑えようとした。康煕帝が親政を開始した後、エビルンに一等公の称号を贈り、太師号を与え、エビルンを大臣の中の最上位の立場にした。しかし、康煕帝に期待されたエビルンは、若い皇帝とオボイの間で常に「中立」を保ち、オボイの悪行を見て見ぬふりをし、弾劾もせず、制止も警告もしないで、場合によってはオボイに追従した。

 康煕8年、若き有能な康煕帝はオボイとその仲間を一挙に取り押さえた。一方、康煕帝はエビルンが2代の皇帝から寵愛を受けたにもかかわらず、オボイが大臣を殺害し、天子を脅かそうとしている悪行を制止せず、善悪の前で声を上げず、悪人を助けたという罪名で、エビルンを逮捕した。1年後、エビルンは病死し、オボイも獄中で病死した。この物語は、「中立」は安全そうに見えても、実際は自分がどちらからも見捨てられ、最も危険な立場に身を置いたことを教えてくれた。

 第28代アメリカ合衆国のウィルソン大統領は、「中立」がネガティブな言葉であると言った。

 第二次世界戦争のヨーロッパ戦場では、ルクセンブルク、ベルギー、オランダなどの国々は相次いで中立を宣言し、極力、戦争に巻き込まれないようにした。しかし、ナチスドイツは決してその手には乗らず、ファシズムの鉄の蹄(ひずめ)はすぐに彼らの「中立」の幻想を打ち破った。スイスも中立を宣言したが、完全に中立になることはできなかった。第二次世界戦争中、スイスがナチスドイツからユダヤ人のゴールドを購入し、ユダヤ人難民の受け入れを拒否したことは、今になっても、その是非について世界で論争を引き起こしている。太平洋戦場で、最も実力のあったアメリカは、中立的な立場を取っていたが、日本軍に真珠湾を奇襲攻撃された。その後、米国は宣戦し、中立の立場を改めた。

 二、「陳腐な悪」―服従による中立

 著名なユダヤ人哲学者、思想家のハンナ・アーレントは「陳腐な悪」(On Banality of evil)という概念を提起した。彼女は独裁政権の下では2種類の罪悪があると考えた。一つは独裁政権自身の「極端な凶悪」で、もう一つは被統治者の「陳腐な悪」、即ち明らかな悪行に対して、阻止も制止もせず、場合によって、それに直接関与することである。

 1962年6月1日、ナチスの将校・アイヒマンは絞首刑に処された。法廷では、アイヒマンは何度も、「自分はあくまでもギアシステムの歯車の一つに過ぎず、ただ単に変速システムとして機能していただけだ」と強調した。ハンナ・アーレントは『ザ・ニューヨーカー』の寄稿者として、法廷からその裁判を報道した。

 アイヒマンの主張は彼女にある考えを呼び起こした。「陳腐な悪」というのは、権力とその体制にただ服従し、「中立」を守り、個人がその体制に同化し、体制の不道徳な行為を黙認することである。たとえ良心的に不安を感じても自分を正当化し、それは体制が悪いと責任を転嫁し、自らの道徳上の罪悪感から免れようとすることである。しかし、殺人の罪を自分の命で償うことは自然の道理である。アイヒマンがいくら自分を弁解しても、結局、正義の処罰から逃れることはできなかった。

 中国共産党(以下、中共)の統治下では、「陳腐な悪」という現象が至る所に見られる。文化大革命がその典型である。伝統文化が破壊された後、知識人は良心と道徳感を失い、一般の民衆も悪事に手を貸すようになった。今の「五毛党」、「小粉紅」、密告する学生、腕章をつけてパトロールをしているおばさん達、人々は私欲私利に動かされ、お金のため、昇進のため、就職のため、受動的あるいは能動的に、中共の意志に追随し、正義と道徳を顧みようとしない。

 人の心は「中立」する中で落ちぶれ、社会は服従する中で墜落し、偽・悪・闘が社会で氾濫し、人は他人の事に全く無関心となっている。このような世の中は、自分の安全が守れるどころか、むしろ、非常に危険なのである。

 2018年10月28日、重慶市では、バスが橋から長江に転落し、運転手と乗客を含む15人が死亡した事件が起きた。それは、ある女性乗客が降りる駅を乗り過ごし、運転手に停車するように求めたが、バス停ではないため、運転手は停車するのを拒否した。双方は激しい口論となり、次第に殴り合いにまで発展し、最後に、バスが長江に転落してしまう悲劇となったのだ。公表した調査結果によると、女性の乗客と運転手との間に衝突が起きた5分間、それを止めようとする人は1人もいなかった。破滅的な行為を目の前にして、皆は無関心な見物人となっただけだった。この5分間、もし1人でも出て来て、それを止めたりしていれば、最悪の結果にならなかったかも知れない。

 それでは、どうすればこのような災難から免れることができるのだろうか? それは正義のために声を上げ、「中立」を選択しないことではないだろうか? 中共の残酷な統治の下、声を上げる事は実に貴いことである。武漢生まれ、武漢育ちの90後(1990年代生まれの世代)のAさんは、いろいろ考えた末、ついに選択をした。彼はVOA(ボイス・オブ・アメリカ)の取材に対し、「武漢の新型肺炎は僕の当局に対する考え方を変えました。僕は死者のために声を上げなければなりません」と言った。「ネット封鎖を乗り越えなければ、そして海外の皆さんに真実の実態を伝えなければ、今、僕も死んでいるかもしれません」、「町が封鎖される日々、僕は多くの反省をしました」、「北京から出稼ぎ労働者が追い出された時、自分は努力家だから、出稼ぎ労働者にはならないだろうと言い聞かせ、新疆で収容所が作られた時、自分は少数民族ではないし、宗教を持っていないので、収容所に入れられることはないだろうと自分に言い聞かせ、香港の人々に同情しますが、僕は街に出てデモをせず、抗議もしていないから僕とは関係がない、と自分に言い聞かせました。しかし、今回、すべての事が自分の故郷で起きました。周りの多くの人が感染し、亡くなった人もいて、僕はもう我慢できません」とAさんは言った。

 三、スイスが中立をやめた事は、まさに中国共産党に落とされた原子爆弾

 邪悪はなぜ思いのままにできるのか、それは人々が何もしようとしないからだ。共産主義が誕生してから、全世界に飢饉、虐殺、独裁政治をもたらした。中共の百年の統治によって、中国の文化はほとんど完全に破壊された。今、中共は生体から臓器を摘出し、中共ウイルス(武漢肺炎)の実態を覆い隠し、香港の自治を破壊し、西側社会から技術を盗み、西側の政治家やビジネスマンを誘惑、腐敗させ、悪事の限りを尽くしている。中共に対して中立的な立場を取ることは何を意味するのだろうか? 中共ウイルスの被害の最もひどい国と地域は、中共に「中立」的な態度を取るところばかりではないか?

 善と悪、正義と邪悪を前にして、中立という立場は存在しない。神が中共を滅ぼそうとしており、どうして中立的な立場になれるのか?

 米国を始めとする西側諸国は次第に中共の邪悪な本質を見極め、次々といろいろな制裁策を打ち出した。中国と香港の高官の海外資産を凍結することは、ドミノ効果をもたらした。これまでずっと「中立」の立場を取って来たスイス政府も、11月に国民投票を行うと公布し、スイス銀行を含むスイス企業が国外の人権侵害者との取引を制限する是非を判断すると発表した。これは中共に落とした原子爆弾となるであろう。

 情報によると、2019年4月17日、秘密厳守で有名なスイス銀行は、「100人ほどの中国人がスイス銀行での預金残高が7.8兆元人民元に達している」とリークしたという。ウィキリークスはかつて、中共の高官がスイス銀行に約5000の口座を持っており、その3分の2は中央の高官が所有しているとした。スイスで国民投票が行われ、中共の高官の5000の口座の資金が凍結されれば、中共にとって、それはアメリカの制裁よりも恐ろしいことであろう。なぜなら、彼らの億万の資産が水泡に帰することを意味するからだ。

 1950年9月14日、中国がスイスと正式に国交を樹立してから、現在まですでに70年も経った。2019年、中国とスイスの二国間貿易額は318億ドルに達しており、中国はスイスから主に機械、電力設備、医薬製品、光学計器、医療設備と時計などを輸入し、スイスの中国に対する輸出額は二国間貿易額の85.7%も占めている。利益の前で、スイスは良識ある立場を選択した。2020年8月2日、スイスの外務大臣イグナツィオ・カシス氏はSonntagsblick紙の取材に対し、「中共は人権を侵害し、香港を激しく弾圧しました。中共はすでに開放の道から離脱しました。スイス政府は中共に対して力強く反応しなければなりません。もし、中共が自らの路線をこのまま続けるのであれば、西側諸国は思い切った行動を取らなければなりません」と述べた。

 スイス政府の方針転換は中共にとってまさに原子爆弾のようなものだ。それはスイスが中立的な立場から中共に反対する立場に変わったことを意味する。正義と邪悪の闘いの中で、中共は完全にバランスを失い、滅亡に向かって走っているのだ。

 神が中共を滅ぼそうとしている。誰もそこから離れることはできない。天意に従い、正義を選択して、初めて世界の未来を守ることができる。

 
(中国語:https://www.minghui.org/mh/articles/2020/8/17/410576.html)
 
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